会社の事務所は、西条の知人のオフィスにしばらく間借りした後、5年前に移転し、いまに至る
移転したビルの大家さんは、私が自治会長をしていたときお世話になった人で
幸先いいぞーーと思ったことを覚えている

ビルの隣には、かつて取材したこともあるアーティストさんが住んでいて、これもラッキーと思った
特にアーティストさんとはとても仲良くしていただき、写真展の題材を提供してもらったこともあるし、作品は毎年のようにいただいたし、本を借りたこともある
畑の作物をもらったことは数知れず・・・

しかし、アーティストさんが急に引っ越すことになったという
最後は本当に、本当にあっという間で・・・
お別れを言うこともできなかった
お別れを言う雰囲気ではないくらい、急だった

すぐに敷地の木々が伐採された
あんなに立派だった森のような庭は、ただのさら地になった
人がいなくなると、家は朽ちるというけれど、外観はぐっと古ぼけたように見えた

今日の午後、お隣から猫が喧嘩する声が聞こえた
私は猫が大好きだ
思わず窓を開けた

すると、ものすごい毛を逆立てた猫2匹が、
かつて木々が生えていた土地を疾走していくのが見えた
アーティストさんが住んでいたら、走ることなどできない空間をまっすぐに・・・

向かう先は車道

車が走ってくる

「あっ」

間髪入れず、風船がはじけるような大きな鈍い音がした

車が停まった

犬の散歩をしていた人が目を背ける

誰も住んでいないお隣さんの庇のおかげで
私には何も見えなかった
しかし、そこに何があるのか、容易に想像できた

私はとても猫を見に行けなくて・・・
会社の人にことの顛末を伝え、見てきてもらう
とても息はないであろう状態だという

このままでは車に轢かれてしまう
布をかけて道端に寄せてもらい
市役所に電話をした
遺体はすぐに撤去された

お隣さんが住んでいたら

あのとき車が通らなかったら

猫が喧嘩しなかったら

猫がのら猫でなかったら・・・

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