二つの写真クラブに所属して、趣味で写真を楽しんでいる。どちらのクラブも平均年齢は七十歳くらい。指導する先生は八十歳だ。最年少の私は、フィルム時代から写真を愛する猛者に混じり、技術の他、撮影マナー、そして人生も学んでいる。

 今から三年前。東広島市立美術館の移転オープンを記念し、市美展に「開館記念特別賞」が設けられた。入賞のチャンスが広がるということだ。私は迷わず「酒まつり」で撮影した写真を出したいと思った。酒まつりの名物「姫神輿」の担ぎ手が、にぎやかで粋な雰囲気の中で法被の裾をそっと手直しするしぐさが気に入っていた。

近年スマホが普及し、誰もが簡単に撮影をするようになった。同時に、「肖像権」についても問題になってきた。写真クラブでも「後ろ姿でも苦情がある」等、注意喚起がなされる。酒まつりの参加者には「写真を撮られることがあります」と伝えられているらしいが、私はこの一枚を堂々と応募したかった。

 被写体は誰なのか。過去に姫神輿に参加した友達、祭り当日にヘアセットや着付けをする人、観光協会……。姫神輿に関係していそうなあらゆる人に聞いて回ったが、分からなかった。あきらめようか、違う写真にしようかと思った時に、細い糸をつなぐように連絡があり、そこからさらに二人を経由して、当事者に行きついた。写真を添えて説明をし、無事許可を得ることができた。応募した写真は、入賞はできなかったけれど、入選という報告ができた。後日、市美展の招待券とお礼状を送らせてもらった。

 その後の二年間、コロナ禍で酒まつりはオンライン開催となった。今年は久々の対面開催ということで、まちは沸いた。姫神輿も三年ぶりに行われるという。

「担ぎ手 募集中」

私は、便宜をはかってくれた人に直接お礼を言うチャンスだと思い、友達を誘って参加した。

 祭り当日、子どもから大学生、外国人、来年還暦!という人まで、さまざまな女性の担ぎ手が集結した。着付け、ねじり鉢巻きにヘアセット、朱色で「祭りメイク」。初参加の私も、立派な姫神輿の一員になった。二年前にお世話になった人に、隙を見てお礼を言ったら、「今日は盛り上げてくれたらええけえね!」と返事があった。普段は行政のお偉いさんだが、この日は毅然とした「姫神輿の代表」の顔だ。

「写真を撮られると思うから、しっかり口紅を塗って」と言われて、ぐいっと赤い筆を引く。「ソイヤ」という掛け声と共に神輿を担ぐと、拍手と共にカメラを持った人たちが現われた。あちこちからシャッター音が聞こえたが、誰からも「撮っていいですか」などと声を掛けられかった。あとで写真クラブの人にそう言うと「若い子を撮ってるんだから安心せい」と言われた。