エンジョイ勢       

随筆 門田聖子

私は小学校四年生のとき卓球を始めた。高校でも、「中学校のときはエースだったし」と自信満々で卓球部に入部した。最初の総当たり戦で下から二番目という散々な成績を残し、卓球で初めて挫折を味わった。入部してすぐ試合があったが、試合に行って応援だけとは、何と情けないことかと思った。

試合の翌朝から、私はたった一人でサーブ練習を始めた。朝練があるような強豪校ではないので卓球場には誰もいない。人ではなくネットに向かって延々サーブを打ち続けた。結果はすぐに出て、次の総当たり戦では全勝。引退するまで一度もレギュラーから外れなかった。大学では、夢の全国大会に出場できた。努力すれば結果はついてくると今でも信じている。

娘や息子にも卓球をしてほしかったけれど、二人ともまるで興味を示さなかった。娘は六歳からテレビ番組で見たチアリーディングを始め、片道一時間かけて体操教室にも通ってバック転や宙返りもマスターした。何回も骨折したが、決して練習を休まなかった。今春から大学生になり、一年生で唯一、Aチーム入りして頑張っている。チアを通じて一生の友達もできたようだ。

 しかし息子はどうだ。三歳から始めたサッカーに熱中し、小学生になるとクラブチームに入ったものの、娘ほどの必死さがまるでない。試合に出られなくても笑顔。PK戦で息子の前に蹴った子がゴールを決めて勝利したあとで「ママ、蹴るところ見たかったな」と言うと、真顔で「チームが勝ったんだからいいじゃん」と言ってのけた。レギュラーから外れても、悔しさも見せない。高校生になった今も、試合結果などどうでもよくて、たくさんの友達と、練習もそれ以外も楽しんでいる。口癖は「オレはエンジョイ勢」。

娘も私も努力して上を目指すのが当たり前だと思っているので、息子もそうであってほしかった。もっと頑張ればうまくなれるのにと思うこともあった。しかし、年を重ねるにつれ、息子の言っている通りだと思うようになった。私は社会人卓球チームに所属しているが、まず、同じくらいの技術を持ち、ほぼ同年代の女性が、団体戦が組める四人集まれたのが奇跡のようだ。メンバーそれぞれに家庭や仕事の都合があり、練習も試合に出るのも簡単ではない。会えば、まずは元気で練習できることをたたえあう。

「試合はケガせずに楽しもうね」

「勝つんじゃなくて、最後までプレーするのが目標」

これこそ、息子が言っていたエンジョイではないか。

娘と息子から、「スポーツへの取り組み方はいろいろ」と教わった。二人とも、団体競技を通じていろんなことを学んだだろうし、よい仲間がいて楽しそうだ。私も、生涯、仲間と卓球をエンジョイしていこうと思う。